本文ここから4.新試験![]() 人工気象室の温度を調整する表野さん=富山市吉岡の県農業試験場 「がむしゃらでした」 夜の高温に強さ証明
検査用の黒い丸皿に並んだ米粒を一つ一つ観察し、比較する。県農業試験場の作物課研究員、表野元保さん(29)=射水市東太閤山(小杉)=は地道な作業を続けていた。「富山57号」(後の「てんたかく」)の耐高温性試験が始まった平成十二年の秋、試験場の実験室。丸皿に並んでいたのは、試験ほ場で栽培した米粒だった。 透明なビニールシートを張ったほ場は、日中の最高気温が通常より平均三・四度高くなる。ところが「富山57号」に予想したほどの高温障害が見られない。 比較用に同じ条件で栽培した、ハナエチゼンなどの既存品種には、かなりの高温障害が出た。「富山57号」は、高温に強い有望品種かもしれない―。 さらに来年は夜間の高温試験をしようと、表野さんは考えた。夜の高温がコメの品質に影響を与えることは、以前から言われていたが、具体的な研究は少なく、裏付けるデータはどこにもなかった。「コメの品質を左右するのは、むしろ夜間の気温かもしれない。それを確立したい」 稲の出穂から収穫までの「登熟期」に高温にさらされると、収穫したコメは透明感のない「白未熟粒」が多く発生する。代表的な高温障害の一つだ。 試験二年目、表野さんは温度調節ができる人工気象室を活用した。昼の気温を三〇度に固定。夜の気温を登熟期に最適とされる二二度と、高温の二五度に設定して栽培することにした。 十三年七月、出穂期を前に、ほ場で育てた「富山57号」とハナエチゼンなど数品種を人工気象室に移した。人工気象室の試験は、一年目に温度管理に失敗した苦い経験がある。表野さんは休日返上で仕事場に足を運び、天候に合わせて細かく機械を設定した。 「とにかく、がむしゃらでしたね。当時は他の仕事もしていたんですけど、覚えているのは高温試験のことばかり」と振り返る。 二年目、検査用の黒い丸皿に並んだ米粒。二二度で栽培した稲は、どれも優良で品質に大きな違いはなかった。 ところが高温の二五度で栽培した米粒には、違いが出た。「富山57号」は、透明感のある米粒が並んでいる。他の品種は明らかに高温障害の白未熟粒が目立った。 毎日、同じ比較を積み重ねるほど「富山57号」の耐高温性が明らかになる。最終的に夜間気温二五度における白未熟粒の割合は「富山57号」が16・8パーセントだったのに対し、ハナエチゼン26・8パーセント、ひとめぼれ53・3パーセントだった。先輩の研究員は舌を巻いた。「これほどはっきりデータに出る試験はない」 翌年から、先輩にアドバイスを得て超高温の二八度も設定に加わり、夜間気温の試験は三年にわたった。表野さんの試験法は学会でも発表され、全国の研究機関に広がった。「当時は懸命で分からなかった。今思うと、すごいことだったのかなあ」と表野さんは話す。 交配から十年後、新品種は「てんたかく」と命名されて世に出た。翌十五年、「てんたかく」は県の奨励品種になった。 メモ:稲の高温障害対策 近年、県内は7月下旬から8月上旬が高温になる傾向にある。コシヒカリをゴールデンウイークに田植えすると、高温期が「登熟期」前半と重なるため、県は田植えを遅らせること、水管理の徹底、直まきなどを呼び掛けている。農水省の調査では、北海道や東北地方北部をのぞく39府県が「高温障害が問題化している」と答えている。 |