立山・黒部 世界へ発信
第1章 未開放ルート・旧日電歩道
北日本新聞 1.19.....N0.16
 黒部ルートと並行するように黒部峡谷の断がいに刻まれた旧日電歩道。宇奈月町の欅平から仙人ダムまでの約十三キロは「水平歩道」とも呼ばれる。その上流部、黒部ダムまでの約十六キロは、渓流がS字形に流れるS字峡、本流と剣沢、棒小屋沢が直角に交わる十字峡、下の廊下の核心・白竜峡と続き黒部峡谷の白眉だ。この歩道を維持することが、黒部川第四発電所を建設する際に、関西電力に出された許可条件の一つになっている。

黒部峡谷・白竜峡近くの断崖に設けられた木のさん道=平成11年9月
現 状 維 持 で い い の か
 歩道は、日本電力が測量道路として開削し、昭和四年に完成した。三十八年に黒部ダムが完成した後は、関電が維持・補修をしている。補修工事は数千万円をかけ毎年七月ごろに始まる。延べ五百人が作業するが、通行可能になるのは九月終わりか十月の約一カ月間だけ。雪の被害が大きかった平成八年のように、補修が間に合わず雪に閉ざされる年もある。

 山小屋関係者によると、歩道を通る人は年間約三千人。幅が五、六十センチしかないところや、足元から垂直に百メートル以上も切り立った谷などの難所が続く。山側にワイヤが張られているものの、登山者が転落する事故は後を絶たず、一般の人が気軽に近づける場所ではない。

 「避難所も逃避ルートもない登山道は、日本でここだけじゃないだろうか」と、黒部峡谷の阿曽原温泉小屋を経営する元県警山岳警備隊員の佐々木泉さん(41)=宇奈月町浦山=は話した。避難小屋建設や、雪渓を渡る危険な個所にトンネルを造るなど「歩道の安全を確保するために、しなければならないことはいくらでもある」と訴える。

 関電の補修工事では、雪渓がふさいだ個所をう回するルート整備なども行うが「工事はあくまで雪崩などの被害があった個所の復旧が目的」と話す。さらなる安全対策や整備については、関電だけで決められることではないという立場だ。

 国や県、黒部川流域の首長らがメンバーになった「黒部峡谷の利用等に関する懇談会」は、平成九年の報告書で、旧日電歩道を利用しやすくするための意見をまとめた。委員の一人で登山家の佐伯克美さん(65)=魚津市佐伯=は「欅平のエレベーターと仙人ダムまでの上部軌道を利用できれば、日帰りで十字峡まで行ける」と言い、黒部ルートと歩道を結ぶことで峡谷観光の可能性が広がることを指摘した。

 仙人ダムから十字峡までの歩道を安全な幅に整備しなければならないが、旧日電歩道の通る場所は農水省の国有林、国立公園としての管轄は環境省、補修は関電と入り組んでいる。それぞれ費用と役割をどう分担するか明確にする必要がある。

 宇奈月町の中谷延之町長は「歩道の整備について、国も県も現状を維持すればいいという姿勢だが、多くの人が安全に通れるようもっと前向きに取り組んでほしい」と述べた。黒部ルートと旧日電歩道がより利用しやすくなってこそ、黒部峡谷の魅力は増す。