立山・黒部 世界へ発信
第9章 変わる電気事業・9電力から独立
北日本新聞 04.05.....N0.149
 電力事業に初めて市場原理を導入した電力小売り部分自由化は、三年目となる来年三月に対象範囲の見直しが決まっており、経済産業省が中心となって、発電・送電の事業分割などが検討されている。全国で電力自由化が進む中、鹿児島県の屋久島はすでに自由化を先取りし、日本で唯一、九電力(沖縄含め十電力)体制から独立した電力自給が行われている。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産で知られる屋久島は人口が約一万四千人。一般家庭と事業所を合わせた約七千百カ所のうち、83パーセント(約五千九百カ所)が、屋久島を供給エリアとする九州電力以外から送電を受けている。

屋 久 島、 自 由 化 先 取 り

 発電を行っている化学メーカーの屋久島電工は昭和二十七年に設立された。年間雨量が黒部峡谷の三〇〇〇ミリをはるかに上回る一万ミリという豊富な水量と急しゅんな地形を生かし、現在は三つの水力発電所(五万六千五百キロワット)と渇水時に備えた火力発電所(一万九千キロワット)一カ所を持っている。

 最大の発電量を誇るのは、安房川第二発電所。斜度二二度の地下ケーブル(四百五十メートル)と地下発電所は、関西電力・黒部川第四発電所の建設で黒部ルート(黒部トンネル)を手掛けた佐藤工業(本店・富山市)が、昭和五十四年に完成させた。屋久島電工水力発電所の立石純弘所長代理は「島内に工事用動力がなかったため、水力と火力の自家発電施設を建設した。九州経済産業局の認可を受け、総発電量の約一割の余剰電力を島民に使ってもらっている」と説明する。

島民に電力を供給している屋久島電工の安房川第二発電所
島民に電力を供給している屋久島電工の安房川第二発電所

 屋久島電工が発電した電気を各家庭に送・配電するのは、上屋久町電気施設協同組合(供給世帯・二千百)と屋久島農協(二千八百五十)、安房電気利用組合(九百)と九州電力(千三百)だ。送・配電事業の利益を農業振興に役立てるなど、各組合の利益は直接、組合員に還元される。屋久町の石川国明助役は「試行錯誤しながら電力自給を続けてきた屋久島は、全国で今後進む自由化のモデルケースになる」と話した。

 有識者や産業界の代表者らが電力市場の自由化拡大策を話し合う、総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会は昨年十一月にスタートした。送電部門を十電力会社から分離し、別会社に任せる「送電部門の中立化」も検討課題の一つ。電力会社が発電から送・配電までを一貫して行う現在の体制を維持するか分離するかの先行きは見えないが、競争力のある電気料金実現のため、電力会社がこれまで以上にコスト意識を求められるのは時代の流れだ。

 立石所長代理は「屋久島は発電事業者、送・配電事業者と利用者の距離が近い。住民の目と声が届きやすいので、事業者側はコストなどの情報を明確にしなければならない」と言う。五十年前から電力自由化を先取りした屋久島は、情報を住民に示し電気事業に必要なコストをともに考えるという点で、電力会社の将来像を示している。