立山・黒部 世界へ発信
第10章 広がる運動・地元の研究機関
北日本新聞 07.02.....N0.162
 黒部峡谷の急流が削り取った土砂は下流に運ばれ、面積120平方キロ、最大幅が14.8キロの広大な黒部川扇状地を形成した。ヘリコプターで上空から見ると、宇奈月町の愛本峡をかなめに、約60度に開く美しい「扇」の先端が富山湾まで達している。海に直接届く大型扇状地は国内ではまれで、日本一深いV字峡谷とともに、黒部川は学術的に重要な地域として、地理学者をはじめ多くの研究者の関心を引き付けている。

 扇状地の黒部川右岸の入善町には、昭和51年に発足した黒部川扇状地研究所(所長・本多宗高富山国際大教授)、左岸の黒部市には、平成元年発足の日本黒部学会(森丘実会長)がある。

 扇状地研究所は、黒部川扇状地について各分野から調査研究を進め、豊かな地域社会の形成を目的としている。現在の会員数は約100人。研究内容は自然、文化、歴史、経済、民俗など扇状地に関するあらゆる分野を網羅している。鍵田正彦事務局長は「優れた先輩研究者のおかげで、黒部研究のすそ野はどんどん広がっている」と話した。調査研究だけでなく、会員が小学校の外部講師として授業を行うなど、地域へも貢献している。

膨 大 な デ ー タ を 蓄 積
北アルプスの山々を背景に広がる黒部川扇状地
 日本黒部学会には、約200人の個人会員と約50の法人会員が参加。自然、文化の研究に広がりを持たせ、総合的な「黒部学」の確立を目指す。過去6回開催した黒部川シンポジウムなどを通じ、黒部川の魅力を県内外にアピールしている。

 黒部峡谷が世界に通用する価値を持つ例として、米国・アリゾナ州の世界自然遺産、グランドキャニオン国立公園(昭和54年登録)との比較研究を長年行っている。森丘会長は「『日本黒部学会』ではなく『黒部学会』として世界に通用する日がくる」と言い、黒部川が将来、国際的な関心を集めることを確信している。

北アルプスの山々を背景に広がる黒部川扇状地

 8月の立山黒部自然環境保全・国際観光促進協議会の設立に向け、準備を進めている黒部市、入善町をはじめ県東部の10市町村は、県民挙げて運動を展開するため、各方面に協議会への参加を呼び掛ける。

 世界遺産登録には、立山・黒部両地域の世界的な価値を科学的な調査に基づいて示すことが必要。協議会では国土交通省や環境省の担当者だけでなく、地元の研究者も含めた調査研究会を設置する計画だ。入善町の担当者は「黒部川扇状地研究所など、多くの団体、個人に参加を求める準備を進めている」と話す。

 森丘会長は「会員の中にも黒部峡谷を世界遺産にしたいと夢を持っている人がいる。今後も右岸と左岸が一体となって黒部の研究に当たりたい」と話した。これまで、両研究機関が蓄積してきた膨大な研究成果は、世界遺産登録の調査を進めるうえでも基礎データとなり得る。両地域を世界に紹介する取り組みの、血となり肉となる貴重な財産だ。