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正念場の地方自治 No.3 連載目次 前へ 次へ

第1部 暮らしと境界 見えない壁 2003.01.05
 住宅街を突き抜け南北に走る市道には、10センチ以上の雪が積もっていた。12月下旬、未明の高岡市牧野地区。エンジン音をとどろかせ、大型除雪車が近付いてきた。しかし、除雪車はそのままUターン。そば屋を営む白木陽子さん(49)の店の前には、わだちを刻んだ雪が残ったままだ。少し時間を置き、別の除雪車が到着。ようやく1本の市道の除雪が完了した。白木さんの店は新湊市との境界にあり「ここが境目って、よく分かるでしょ」と笑った。

 人口約9千人の牧野地区は、新湊市を南北に分断する格好で位置する。新湊市の南部と北部を結ぶ道路は何本もあるが、除雪は2つの市がそれぞれの市域だけを対象に行っている。このため、作業の時間帯がずれれば、道路は“まだら”状態になることも。「一気に済ませた方が効率的なのに」。白木さんは不満げだ。

ちぐはぐな除雪作業
禍根残した昭和の合併
 牧野地区は、戦前から合併の波に洗われ続けた。旧牧野村は昭和15年、新湊町(現新湊市)と合併。2年後には高岡市に編入された。伏木港の一元的な運営を目指した国策による強制合併だった。戦後になり、戦時中に合併させられた市町村を復旧する措置がとられたことから、26年に新湊町、牧野村として高岡市から分立。新湊は市に移行し、牧野村は「発展が望める」と判断して高岡市に復帰、新湊を分断する境界ができた。

 境界は、住民生活にさまざまな弊害をもたらした。道路整備はちぐはぐで、牧野地区に入った途端に道幅が狭くなる。未舗装のままの所もあり、下水道や融雪装置の整備も遅れ気味だった。住民は否応なく「見えない壁」の存在を意識させられた。地区内には新湊市のコミュニティーバスが走っており、牧野校下連合自治会の塩谷隆志会長(66)は「生活圏はもちろん、地理的にも事実上新湊なのだから、もっと連携を図ってほしかった」と漏らす。

§   §   §

 「牧野は辺境にされた」「新湊と合併できなければ、住民は混乱する」。昨年11月末、高岡市が牧野地区で開いた住民説明会では、「牧野をいつまでも“谷間”にしてほしくない」という住民の切実な声に、佐藤孝志高岡市長は「最大限の努力をする」と答えるのが精いっぱいだった。

 人口30万人以上の中核市を目指す高岡市は、高岡広域圏4市町に新湊市を加えた枠組みでの合併を働き掛けてきたが、新湊市は既に射水広域圏で合併を目指す考えを打ち出していた。住民の声は、両市の合併を危ぶむ不安の表れだった。

 12月に入り、分家静男新湊市長は高岡広域圏の首長会議への参加を断った。さらに、射水広域圏の経済界も新湊市と射水郡の合併を求めて活動を活発化させるなど、両市の合併はさらに遠のきつつある。

 「新湊を切り離して将来像は描けない。合併しなければ、牧野独自の道を選ぶこともある」と塩谷会長。「見えない壁」を解消するには、高岡市から分離し、再び新湊に編入する手段も残されている。だが、高岡、新湊両市議会の承認を得るなど、ハードルは限りなく高い。安易な境界設定は将来に禍根を残す。

新湊市から牧野地区に入る
新湊市から牧野地区に入ると、未舗装部分が現れる=高岡市中曽根

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