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正念場の地方自治 No.5 連載目次 前へ 次へ

第1部 暮らしと境界 温泉街を守る 2003.01.07
 「宇奈月は裕福な町と言われる。だが…」。中谷延之町長は危機感を募らせていた。

 ピーク時に1万人以上いた町の人口は今では6400人を切っている。それでも職員の数は、ほぼ同規模の庄川町より50人余り多い146人と、充実した体制を維持している。黒部峡谷の発電設備など固定資産税で潤う財源が、それを支えてきたからだ。

 「状況はいずれ変わる。発電設備の減価償却が進めば、年に7千万円近く減収する可能性だってある」。町長は昨年、各地区を回って自らプロジェクターを使い、見通しを説明した。減り続ける人口は学校運営に響くだけでなく、税収を確実に悪化させる。国の財政は厳しい。台所事情の悪化が避けられない状況で、中谷町長が危ぐするのは、「手厚いサービス」が負担の重さと裏腹であることだ。

重荷でも必要な消防
広域化に打開の道
 町は人口1万人未満の自治体としては県内で唯一、単独で消防体制を維持してきた。全国の町村の中でも、8番目に小さい。本部は温泉街の玄関口にあり、菅田慶一郎署長は「宇奈月は、どこより消防が必要とされてきた」と説明する。

 昭和21年の大火以降、町はたびたび火災に見舞われた。39年には旅館施設など12棟が焼失。火事の知らせを受けた消防団員が、自宅から分団屯所に駆け付ける体制だったため現場到着が遅れた。「行き止まりの町だから、ほかから消防車を呼ぶと遠い。観光客も多いと6千人近く訪れる。消防の充実が欠かせなかった」。温泉街で喫茶店を営む元団員の辻幸治さん(70)は言う。

 翌40年に、常駐の消防職員を置くことが決まった。菅田署長ら4人が採用され、役場職員の仕事だった予防査察や危険物検査などを担うようになった。9年後には庁舎も完成。署にはポンプ車2台と救急車2台、救助工作車1台をそろえ、人口数万の自治体に匹敵する24人が、常時7人態勢で待機している。

 ただし、こうした消防体制は町の財政を確実に圧迫している。人件費は年々高騰。消防費は歳出の5パーセントを超え、他の自治体に比べ格段に高い。

§   §   §

 「本来、消防が率先して合併を進めるべきなんでしょうね」と菅田署長はつぶやく。財政面を抜きにしても、さまざまな矛盾が浮かび上がっているからだ。町は広い。救急出動しても、黒部峡谷のふもとの温泉街から、搬送先の黒部市民病院まで片道16キロもある。黒部市に接する浦山地区などは黒部から出動した方が早い。「それにうちには、はしご車がない…」。初期消火に即応できても、大きなビル火災が起きれば黒部市などから応援をあおぐしかない。

 総務省消防庁は市町村合併の動きに合わせ、全国の消防本部の統合・再編に乗り出すことを決めた。広域化で予算や人員規模を大きくして高価な機材の導入を進め、救急救命士などの育成を促すのが狙いだ。「合併を進めるとき、各市町とも消防の扱いには苦心するだろう」と中谷町長は踏んでいる。広域化のメリットを生かすためにも「むしろこれまで以上に、この分野に力を入れることになるはず」。住民の生命と財産を守る職員と設備は単純には減らせず、全体を見渡した行財政のスリム化に迫られる。

温泉街での出初め式
温泉街での出初め式。消防団員らが一斉放水=宇奈月町宇奈月

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