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正念場の地方自治 No.6 連載目次 前へ 次へ

第1部 暮らしと境界 救急車がない 2003.01.08
 平成10年秋、山田村中村で食料品店を営む小向敏雄さん(55)は、強烈なのどの渇きを覚え、深夜に目を覚ました。顔がこわばり、水がのどを通らない。家族に体の異変を伝えようとしたが、言葉も出てこない。「こりゃ脳梗塞かもしれん」。妻の運転で約7キロ離れた八尾町の病院に向かった。救急車を呼ぼうとは思わなかった。「この方が早く医師の処置が受けられる」。そんな判断が働いた。
「119番」役場が隣町に要請
合併しても配備困難?
 山田村の住民は、自宅から直接救急車を呼ぶことができない。119番すると、村役場につながってしまう。村職員が、隣接の婦中、八尾両町のどちらかの消防本部に連絡し、出動を要請する。自前の救急車がない上、細入、舟橋両村のように隣町と業務委託契約を結んでいないためだ。両町が要請に応じるのは「人道的な配慮」(婦中町幹部)という。

 村の消防団員を務めていた小向さんは、時間ロスの生じる通報体制を知っていた。隣町から救急車の到着を待つのがもどかしい。しかも、村は救急車を出してくれた町に対し、10万円の「謝礼」を支払っている。「村に余計な負担をかけるのも気が引けてねえ」

 こうした思いを抱くのは、小向さんだけではないようだ。村が昨年1月から11月末まで、両町に救急出動を要請したのは21件。人口千人当たりの出動要請件数は約10件で、婦中、八尾両町の半分にとどまる。

 「昭和の大合併」で独立を貫いた村は、過疎債を活用し、下水道などのインフラ整備をいち早く実現。希望世帯にパソコンを配布し「電脳村」として全国に名をはせた。その半面、市町村単位が原則の救急業務は手つかずとなっていた。

 財政負担の重さが理由だった。消防庁の試算では、救急車1台を維持する経費は年間約8千万円。交代要員の人件費を含んでいるものの、車両の更新など、実際の支出はさらに膨らむ。人口約2千人で、県内一自主財源の乏しい村では無理な相談だった。職員に中古の救急車を運転させる案や、隣接2町に働き掛けた救急業務の広域行政化も実を結ばなかった。

 「肝心の役割を果たせず、これでは村が小さ過ぎると言われても仕方ない」。山崎吉一村長は、小村の限界を認める。「だが、それだけで行政のすべてを評価するような最近の風潮はいかがか」とも語る。小さいからこそ実現した施策は数多い、との思いがにじむ。

§   §   §

 村は昨年末、森雅志富山市長が提唱した合併協議会準備会への参加を表明した。富山市と上新川、婦負両郡の6町村が合併すれば、救急業務は一元化され、不便な通報体制は解消される。だが、今も服薬を続ける小向さんは、再び病に襲われても119番するつもりはない。「端っこの村は、どう境界を変えても端っこだよ」

 財政悪化が叫ばれ、全国900の消防本部の再編構想が浮上する中、過疎にあえぐ県境の小村に、救急車が配備される可能性は低い。時間ロスが、やや改善されるだけのことで、今後も、家族や住民同士の助け合いで対処していくのが現実的と思えるからだ。「ただ、便利さに慣れた若い世代はどう感じるか」。小向さんはそれだけが気掛かりだ。

休日の山田村役場
休日の山田村役場。119番に対応するため、職員が待機している

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