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正念場の地方自治 No.10 連載目次 前へ 次へ

第1部 暮らしと境界 小さな村の決断(上) 2003.01.12
 舟橋村立図書館には、週末にもなると、親子連れがひっきりなしに訪れる。書棚のそばでは、母親と子どもが床に座って本を読んでいる。近くに住む主婦の中田恵子さん(35)は、玄関で下足を脱いで入館するのにも慣れた様子だ。「きょうの晩ご飯、何にしようかなって悩んだらここに来るんです。娘は床に寝そべって本を読めるのが気に入ってるみたい」。木造の室内は床暖房で温かい。

 人口2,500人の村の図書館とは思えないほどのにぎわいに、館長の辻沢与三一さん(77)は目を細める。「こんなに利用があるとは考えもしなかった。正直、この村の規模で本格的な図書館をつくるのは難しいと思っていましたから…」

人口2,500人で本格図書館
効果を上げる身近な行政
 平成7年のある日、役場村長室。辻沢さんとは滑川商業学校時代の同級生だった松田秀雄村長が切り出した。「図書館をつくるのは村長に就任して以来の夢だ。どう思うかね」

 県図書館協会長だった辻沢さんは、かつて富山市立図書館長を勤めた経験から正直に説明した。住民の3割が利用登録したとしても、人口1万人以上でなければ効率的な運営はできない。事実、市立図書館の15の分館は、1万人以上の小学校区に1つを目安にして置いている。「運営するのは大変でしょう」。だが村長は、図書館をまちづくりの核にするのだと言って譲らなかった。

 村は、富山地方鉄道の舟橋駅舎に図書館を併設させて通勤客らを呼び込むとともに、1つの役割を図書館に期待した。

 村の人口は平成に入るまで1,300人台で停滞し、一時は舟橋小の新入学児童が6人に落ち込んだ。危機感を抱いた村は宅地造成を阻む市街化調整区域の指定除外を実現させ、開発を急いだ。

 村の思惑通り村民の数は年々増えたが、新たな課題も浮かび上がってきた。新旧の住民が顔を合わせる機会が少なく、会話もない。コミュニケーションを図る場が必要だった。村は、村民が自然に足を運べる図書館がふさわしいと考えた。

§   §   §

 「新刊を500冊程度しか購入しないような図書館では、見向きもされない」。辻沢さんの助言を受けて図書館づくりは進み、「下足は脱ぐことにしよう。リラックスするには床暖房がいいなあ」と言う村長の意向も反映された。辻沢さんを館長に迎えて平成10年に開設した図書館は、蔵書3万8千冊、年間の新刊購入4千冊。1人当たりの図書費は2,350円に上り、県内市町村の平均とはケタが一つ違う。

 村民の図書カード登録率は高い地区で7割を超え、平均56パーセントが利用。辻沢さんは「この村は小さな小学校区に、1つの図書館があるようなもの。子どもやお年寄りが歩いて通える距離にあるのが利いている」と言う。

 対照的なのが人口17万人を抱える高岡市だ。市立の図書館は4つあるが、市全体の登録率は8.5パーセント。図書館から離れた地区で、軒並み登録率は下がっている。

 松田村長は昨年末、富山市などとの合併に加わらず、単独を貫く方針を表明した。「小さな村だが、住民に近い行政だからこそ必要な施策を効果的に打ち出せる」。住民が本当に求めるサービスを優先して行うことが、最も無駄がなく効率的という考えだった。

舟橋村立図書館は床暖房で温かい
舟橋村立図書館は床暖房で温かい。下足を脱いでリラックスする利用者=同村竹内

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