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正念場の地方自治 No.28 連載目次 前へ 次へ

インタビュー編 五十嵐 敬喜氏 法政大学法学部教授、弁護士 2003.02.19
 「合併して巨大化すれば、行財政が効率化されるという。だが、この1,200万都市、東京都が効率的に見えますか」。法政大学の研究室で、五十嵐敬喜教授はため息をつく。田中康夫知事が「脱ダム宣言」をした長野県の治水・利水ダム検討委員を務めていることもあり、「そもそも国や地方の財政危機を招いたのは、無駄な公共事業の積み重ねが原因」と批判。効率化ばかりがクローズアップされる合併論議に、疑問を投げ掛ける。
住民に見えぬ合併目的

市町村合併の動きをどう見るか。

 背景には財政問題がある。3,200ほどある市町村を合併で減らし、財政を効率化したいと国が考えているのは明らかです。自治体も特例債などの優遇策で、とりあえず財政危機が乗り越えられる。双方の思惑は合致しています。だが、住民にとって「何のためにやるのか」が見えない。

地方制度調査会で西尾副会長が、小規模町村の「強制合併」とも受け取れる私案をまとめた背景には、小さな自治体には分権を担う体力がないという考え方がある。

 ナンセンスです。市町村の仕事は大ざっぱにいえば「福祉と町づくり」。そう考えると、今の市町村で一体何ができないのか、逆に合併して大きくなると何ができるのかがよく分かりません。

 私は神奈川県真鶴町にかかわってきた。9,000人ほどの町ですが、景観を守る“美の基準”を盛り込んだ「まちづくり条例」をつくり、基準に合わない無駄な開発事業を廃して、うまくやっています。秋田県鷹巣町は、痴ほう老人を残して仕事に出掛ける夫婦や、介護に苦しむ町民の実態と向き合い、財政から徹底的に見直して、福祉に力を入れた町づくりを行っています。いずれも個性的で財政事情は悪くない。

 住民に直接聞いてみればいい。決して高速道路なんかを望んでいるわけではありません。住民の要望を聞き、住民の求めることを実現すれば、最も無駄がなく、最も効率的な「住民サービス」ができます。規模の大小に関係なく、しっかりやっているところはやっているんです。

五十嵐敬喜氏
 いがらし・たかよし 昭和19年山形県生まれ。早稲田大法学部を卒業し、43年に弁護士登録。公共事業や都市問題などに携わってきた。平成8年から法政大学教授。専門は公共事業論。著書に「破綻と再生」など。
無駄重ね財政危機招く

なぜ、国や自治体は財政危機を招いたのか。

 ダムの問題は典型的です。仮に県の単独事業で100億円のダムを造るとすれば、国が半額負担し、県は50億円を出費するだけですむ。しかも、その大半を借金でまかない、借金の7割近くは国が面倒をみます。県は15パーセントほどの金を出すだけでダムを造れる。ここから理屈が逆転してしまう。

 みんな本当はダムなんかいらない。「工事」が必要だと思っている。15億円も出せば100億円のダムができるんだから、やめると損をするような気持ちになる。ハコモノもそうです。

 公共事業の問題には、大から小まで「どうせ国の金」という発想が働いています。逆に本当の意味で分権が進み、自分たちで出した財源を大切に思うようになれば、ダムを造ろうなどと考えるはずがない。

台所事情が悪くなったのは、無駄を積み重ねた結果ということか。

 そうです。今の合併は財政がどんどん苦しくなるから進めよと、変な話になっています。最初からねじれた構造に、いくつものねじれが重なり、平成の合併が進められているように思えますね。

 地方分権は中途半端なままです。補助金行政で国から都道府県へ、都道府県から市町村へと下りていくシステムが続き、分権になっていません。それをまず見直すべきでしょう。ごみや水道、火葬場など1つの自治体でできないことがあるなら広域で連携すればいい。この2つを徹底的にやるべきだと思います。

国は地方分権を進めるうえで「三位一体」の改革を唱えている。

 地方交付税の見直し、補助金の廃止、税財源移譲と中身は本当にいい。しかし、進み方がいかにも遅い。小泉純一郎首相には官僚の抵抗を廃して頑張ってもらいたい。そうでなければ、今の合併は死んでしまいます。


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