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正念場の地方自治 No.30 連載目次 前へ 次へ

インタビュー編 池上 洋通氏 自治体問題研究所理事・主任研究員 2003.02.23
 毎年100回以上の講演をこなし、そのうち7割は市町村合併がテーマだという。池上洋通自治体問題研究所(東京都)理事は、合併慎重派の論客として知られ、八尾町や魚津市の議会でも、その主張を展開した。「法律の期限に間に合わせようと、急ぎすぎる合併の動きは危険。じっくりと時間をかけて考え、結論を出すべきです」。東京都日野市の職員だった経験もあって、合併による職員削減にも「雇用確保」の視点から疑問を投げ掛けるなど、論点は幅広い。
共同意識薄れる大都市

市町村の規模を考えるときに、欠かせない視点は何か。

 まず自治体が巨大化すると、地域で共同生活を営む意識が薄れます。象徴的なのが、犯罪の激増ですね。平成13年の犯罪検挙率は2割を切ってしまった。なぜか。大都市などで犯罪捜査への住民協力がなくなったからです。このことと、地域の在り方は決して切り離して考えられません。

 昨年2月の参院憲法調査会で、「憲法と地方自治」という論議に参加しました。そのとき、自民党のある議員が私に尋ねました。「政令指定都市など大都市では、人間関係が弱くなっている。市の行政区に議会のようなものを置けば、住民がもっと積極的に自治に参加し、“評論家”ではなくなるのではないか」と。もちろん川崎市などは必死にコミュニティー政策を行っていますが、必ずしも、うまくいっていません。大きな地域の中では「自分がやらなくても誰かがやるさ」という意識になってしまう。

その傾向は、選挙の投票率が大都市で低いことにも表れている。

 地方分権に本当に必要なのは、住民がおまかせ民主主義から脱却すること。住民が、政治と行政に参加しやすい自治体規模が大切なんですよ。住民が責任を持って、それぞれの自治体を運営できる範囲内に、足場を築いていくことです。

池上洋通氏
 いけがみ・ひろみち 昭和16年静岡県生まれ。日野市職員を退職後、自治体問題研究所事務局長、月刊「住民と自治」編集長を経て現職。千葉大学、自治医科大学非常勤講師。著書に「市町村合併 これだけの疑問」など。
論議には時間をかけて

だが、財政危機に対処するには、合併も有効な手段と言われている。

 いや、財政危機を突破するには景気回復しかありませんね。国民の個人貯蓄は、1,400兆円もある。日本経済は循環していないだけです。個人消費を拡大するには、安心してお金を使える社会にすればいい。社会保障を中心に、しっかりした公共政策が欠かせません。福祉など身近なサービスを行う市町村が、きめ細かいプログラムを組む必要があります。だが合併で職員を減らせば、きめ細かさは失われます。

 それに「雇用拡大」が、この国の大きな課題です。特に小さな町村では、役所が最も安定した雇用力を持っている。こんな時期に、職員を減らしていく政策が果たしていいのかどうか。

合併後の市には財政的な優遇措置もある。

 市町村が期待している合併特例債は、借金でしかない。後々の交付税負担で財源を保障するといいますが、国にはそんな力はありません。ただし財政支援が終わると、合併した自治体に配る地方交付税は、合併しなかった場合より減額される。それを、前倒しして支払うだけのことです。

市町村は、何をなすべきだと思うか。

 どんな将来像を描くのか真剣に考えてほしい。住民の生活の保障、働く場の確保など自治体が抱えている課題は多い。例えば児童虐待など、子育ての悩みは深刻化しています。今後増え続ける高齢者にしても、歩いて暮らせる範囲での街づくりが不可欠なんです。環境問題、産業の振興…。合併を進めて、これらの課題に対処できるのか。

 また、人の少ない山村は合併の標的になっていますが、農林業はもともと広大な面積が必要ですから、人口密度が低いに決まっています。こうした地域から自治体の単位をなくしてしまうと、国土計画や食糧計画にとっても、食糧自給率を下げてしまうなど深刻な問題を招きかねません。

 誤った選択をしないためにも、焦らず時間をかけて議論を深めたい。住民レベルの議論になっているかどうか、見つめ直すべきでしょうね。


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