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正念場の地方自治 No.31 連載目次 前へ 次へ

インタビュー編 神野 直彦氏 東京大学経済学部教授、地方制度調査会委員 2003.02.24
 夕暮れの東京大学本郷キャンパス。静まり返った経済学部棟の一室で、神野直彦教授の声に力がこもった。「市町村合併は手段にすぎません。重要なのは何のために改革するかです。そこを見失ってはいけない」。地方制度調査会の委員などを務める「地方財政」の第一人者が、インタビュー編最後の論客だ。行政サービスを充実させるため「強制合併」を進めたスウェーデンや、合併しない道を歩んだフランスの事例を紹介し、地方分権の将来を語った。
改革の目的見失わずに

自治体の在り方は国によって違うのか。

 欧州では地方分権が進むと同時に、自治体の在り方も検討され、2つの動きが見られました。

 1つは、大きな自治体をつくる流れですね。スウェーデンでは強制合併を進め、2,500あったコミューン(基礎的自治体)を約280まで減らしました。財政力を強め、福祉や教育といったサービスを充実させるためです。しかし、規模が大きくなり、住民から遠い自治体になった。そこでコミューン内の小さな地域に「地区委員会」を設け、そこで身近なサービスを行っています。

 逆に合併しないフランスはコミューンが3万5,000もあります。教会を中心に集まる生活共同体ですから、規模は小さい。教育や福祉はできても、ほかのことができないわけです。彼らは日本でいう広域連合をつくりました。都市共同体には議会があり、課税権もある。「規模の利益」が働く事業は都市共同体でやり、身近なサービスはコミューンで行っています。

どちらの方法も結局は同じに見える。

 そう。地方自治体が担うべき公共サービスが増えたために、身近なサービスは身近な地域で、広域で行うサービスは広域でやるという具合にどの国も工夫したのです。

 「何のために改革するのか」という目的が重要なんですね。日本の市町村で問題なのは「決定権がない」こと。財源をもらい、政府が決めた仕事を下請けのようにやっている。全国一律です。地方の住民が決める公共サービスになっていないから住民ニーズに合わず、税金を無駄遣いしてしまっている。そうしないために、どんな制度設計にするのか考えないと。

 合併する、しないは手段でしかない。地方分権とは関係ないんですよ。地域住民が、自分たちで公共サービスを決定するには、どんな規模、どんな仕組みが必要かを見定めなければならない。自己決定できる強い自治体にするには、どうすべきかということです。

神野直彦氏
 じんの・なおひこ 昭和21年埼玉県生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院博士課程修了。大阪市立大学助教授などを経て現職。地方制度調査会委員、地方分権改革推進会議委員などを務める。専門は財政学・地方財政論。著書に「財政学」など。
住民の決定権強化を

首長の多くは、国から地方への税源移譲が欠かせないと言う。

 税源移譲は自分たちの地域で出した税金を、自分たちの地域で使うという話。とても大事です。ただし、お金は、わいて出てくるわけではないんですよ。スウェーデンの中学生の教科書には、コミューンの予算について討論している部分があります。「われわれはコミューン税を軽減したい。減税は人々の選択の自由を広げる」「それは絶対に駄目。減税はサービスを低下させる」「減税しないかわりに、料金の引き上げを提案する。電気や水を浪費する人、節約する人もいる。料金引き上げが公正だ」「いや。それは高額所得者に利するだけ。大多数の人にとって増税がベストだ」

 地方分権の実現には、こういうことを国任せではなく、地域に暮らす住民が考え、実行していく仕組みが必要です。市町村合併は、あくまでも住民の自己決定権を強めるために行う手段の一つであり、弱めるためのものではない。目的を果たすため、どんなステップを踏んで「地域のかたち」をつくるのか、そこを議論すべきなんです。

そうは言っても、現場はあせっている。

 手段に目を奪われているからでしょう。「合併するから、お金を保障しろ」と、何か取引材料のようになっている。目的を見失っています。日本は改革するときスピードを求めますが、欧州はスローアップ・アンド・カームダウン、ゆっくり落ち着いて冷静にです。ハンドルを大きく切るときは冷静に進まないとね。アクセルをふかすと、ひっくり返りますよ。

 インタビュー編は終わり。第3部「ルポ・列島 再編の現場」は3月上旬から掲載します。


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