富山県内の市町村合併 ホーム > 市町村合併 > 正念場の地方自治
正念場の地方自治 No.33 連載目次 前へ 次へ

第3部 ルポ・列島 再編の現場 静岡市・清水市 2003.03.14
されど名前
 清水港から橋を渡って左手に、静かな商店街が続く。一角にある清水次郎長の生家で、土産物などの店番をしていた服部豊野さん(87)は「静岡の次郎長じゃねェ…」と苦笑し、「清水」という名の市がなくなるのが、やりきれない様子だ。

 静岡市と清水市。4月1日に発足する新しい市の名称は「静岡」に落ち着いたが、全国に名をはせるビッグネーム同士の合併は、新市名を決める過程でもめにもめた。

難航の末、投票で決着
割り切れぬ住民感情

 市名の協議は平成12年11月から始まり、最終決着をみたのは1年半後だった。県都の静岡市は人口47万人で、清水市23万5,000人の2倍にあたる。「市名は静岡に」とこだわる静岡側に対し、清水側は「対等合併するからには、今の市名に固執すべきでない」と主張し続けた。

 名称を全国に公募する段階から、合併協議会の意見は対立。公募対象に「静岡」と「清水」を含めるかどうかで、折り合いがつかなかった。清水市広域行政課の木村講二総括参事は「今の市名を含めてしまうと、“組織票”が入る。お分かりでしょう。人口比がものを言うんです」と、駆け引きの背景を説明する。

 歩み寄りはなく、ゲタを預けられた首長同士の話し合いで、現市名を含めるよう主張した静岡側の言い分が通った。5万件以上集まった案は上位から「静岡」「清水」「駿河」などと続いた。

 候補の絞り込み方法でも、意見は激しくぶつかった。名称選考委員会は休憩に次ぐ休憩。互いに水面下で調整し、けん制し合った。「休憩が、会議を進めたようなものです。県議や市議も会場に来て、騒然とした雰囲気でした」。結局、名称選考委で選んだ5候補の中から、合併協議会で、2段階の投票を行って決めることになった。

 最初の投票で、清水側は慣れ親しんだ「清水」を候補から外した。苦渋の選択だった。「誰も清水の名を捨てたくない。だが、合併をつぶしたくなかった」と木村総括参事は、かみしめるように話す。政府が大型合併を条件に、これまで100万人が基準だった政令指定都市の人口要件を緩和する方針を打ち出したこともあり、政令市実現を目指してきた。「新しい都市をイメージできる名称にと腹をくくったんです」

 昨年2月28日に迎えた決戦投票。清水側の委員は市役所に1度集まり、「駿河」に意見を一本化した。委員は両市から18人ずつ。ほかに県職員が2人いたが、白票を投じるとみられた。互いに1人でも“裏切り”が出れば敗れる情勢だ。予想しなかった展開に、静岡側は慌てた。

 住民がかたずをのんで見守る中、投票は行われた。結果は20対18で「静岡」。その差は、知事の意向を受けた県職員が投じた票だった。

新「静岡市」4月スタート
新しい「静岡市」が4月にスタートする。合併のヤマ場は「市名」協議だった
§   §   §

 港に面した娯楽型複合商業施設「エスパルス ドリーム プラザ」。清水サッカーミュージアムの売店では、店員の奥谷哲馬さん(20)が「ショックです。あの2票はフェアじゃない」と今も不満を口にする。清水の文字は「静岡市清水○○町」など、町名の上にかぶせて残すことになったが、ちびまる子ちゃんランドで働く長島有希さん(21)は「清水市が好きだったのに。寂しいです」とつぶやいた。

 さまざまな歴史を刻んできた市の名称。住民の愛着の深さが、うかがえる。行政レベルでは決着しても、住民感情にはしこりが残ったままだ。

 市名が決まり、組織や税金、各種サービスなどの協議は終わったが、13万円の開きがある議員報酬の格差をどう解決するかは、まだ、決まっていない。木村総括参事は実感を込め、合併の準備に明け暮れた5年間を振り返る。「合併は、なまはんかではできません」


(C) 北日本新聞社 記事・写真の転載を禁じます
The Kitanippon Press, All Rights Reserved