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正念場の地方自治 No.35 連載目次 前へ 次へ

第3部 ルポ・列島 再編の現場 京都府加悦町 2003.03.16
使いきった基金
 昨年2月、鉄筋3階建ての豪華な庁舎がお目見えした。日本三景の1つ、天橋立のある宮津市から車で約30分。人通りの少ない住宅街を抜けると、京都府丹後地方にある加悦(かや)町の新庁舎が現れる。

 庁舎は和風をイメージし、屋根はかわらぶき。正面入り口にはイベントや展示会を開けるよう、吹き抜けの円形広場がある。防災用具や非常食を備蓄できる防災センターを併設。既存の保健センターを合わせ、3つの建物は2階の回廊で行き来できる。

 12年秋に着工し、事業費は土地取得費用を含めて約13億円だった。うち約11億円は、昭和55年から積み立ててきた庁舎建設基金を充てた。町行政課の和田茂課長は「地域の中心的な役割を担うコミュニティーセンターとしても活用していきたい」と話す。

 だが完成したばかりの町の新しいシンボルも、2年後には支所や出張所になるかもしれない。加悦町は人口7,800人。2万3,000人の宮津市など近隣市町との合併協議が進んでいるからだ。

合併前に役場を新築
本庁舎になる望み薄く

 京都府内の合併に向けた動きは、12年から始まった。改正合併特例法が施行される直前、府と市長会、町村会が共同で研究会をつくり、翌年には各地に「行革推進会議」の設置を呼び掛けた。加悦町など5市町の分科会もでき、昨年の年明け早々、法定協議会を設置する方針を決めた。

 宮津市企画調整課の山口孝幸課長は「単独で財政を維持するのはどこも厳しい」と、合併の理由を説明する。丹後ちりめんで有名な地域一帯は、昭和50年代まで織物業で栄えたが、高級和装の需要が低迷し、バブル経済崩壊が拍車を掛けた。

 加悦町の主要産業も丹後ちりめんだ。生産量はピーク時の5分の1。織物の事業所数は500足らずと、3分の1近くに減った。町の歳出は10年前の1.5倍に膨らんでいるが、税収は減る一方。財政見通しでは、単独だと17年ごろから、自治体の「貯金」に当たる財政調整基金を大幅に取り崩し、歳入不足を補う必要がある。

 町は合併に生き残りをかけることにした。

昨年2月に完成した加悦町の新庁舎
昨年2月に完成した加悦町の新庁舎。町は他市町と合併論議を進めている
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 5市町は昨年10月、法定協議会を発足させ、17年3月までの合併を目指している。新市建設計画の策定では「観光を将来構想の柱にする意見も出ている」(山口課長)という。中心地はまだ決まっていないが、人口規模が大きく、全国に名高い「天橋立」をもつ宮津市が最有力だ。

 加悦町は、5市町の西端に位置する。昭和60年には、宮津市までつながっていた鉄道が廃線になり、観光客もなかなか呼び込めない。合併論議と同じ時期に庁舎の新築が進んだものの、新市の本庁舎を置くのは難しい。豪華な庁舎は「駆け込み事業」とさえ受け取られかねない。

 「心外ですなぁ」と、和田課長は不機嫌そうに顔をしかめた。「建設計画は、合併が具体化する前に動き出していた。町には他市町のような立派な文化ホールがない。図書館もない。町民が使う拠点施設が、必要だったんですよ」

 旧庁舎は昭和4年に建てられ、府の登録文化財にも指定されている。2階建てで大きな公民館ほどの広さしかなく、町民会館に教育委員会を置くなど行政機能を3カ所に分けていた。町民の利便性を考える上でも、新築が迫られていたという。和田課長は「合併は関係ない」と強く否定するが、「支所としても使えるよう課の間に壁を設けず、フロアを見渡せるようにした」とも話す。

 建設基金は、町のためにと積み立てた。合併すれば、加悦町向けに使われる保証はない。町は基金を使い切った。


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