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正念場の地方自治 No.38 連載目次 前へ 次へ

第3部 ルポ・列島 再編の現場 広島県高宮町川根地区 2003.03.19
内部団体
 「ここまでやるんですか」。政府の地方制度調査会の西尾勝副会長(国際基督教大学教授)はうなった。1月末、広島県高宮町で開かれた住民との意見交換会。川根地区の辻駒健二振興協議会長(58)の報告に耳を傾けるうちに、そんな言葉が口をついて出た。

 中国山地の島根県境にある川根地区は人口600人余り。高齢化率53パーセントの過疎集落だが、全戸が加入する自治組織の協議会が、町の助成金や会費を元手に年間約400万円の予算を編成。独立採算で宿泊研修施設やスーパーを経営するほか、地域ぐるみで福祉サービスにも取り組んでいる。

 西尾副会長は昨年11月に発表した私案に、合併後も旧町村の自治を確保する仕組みとして「内部団体」という構想を盛り込んだ。そのモデルになり得ると、「小さな自治の先進地」と呼ばれる高宮町を視察に訪れた。

住民と行政が「協働」実現
「西尾私案」を先取り

 「最初は自治なんて意識はなかった。暮らしを守りたい一心だったよ」。辻駒会長は協議会の設立経緯を語り始めた。

 かつて独立した村だった川根は昭和31年、周辺2村との合併で高宮町になった。当時は人口2千人だったが、高度経済成長期に過疎と高齢化が急速に進んだ。高校の分校、中学校が消え、唯一残った小学校も児童減が止まらない。

 47年には集中豪雨に襲われ、壊滅的な打撃を受けた。陸の孤島と化した川根に支援の手は届かず、住民は協議会をつくり、被災家屋の後片づけや消毒を急いだ。

 水害を機に「町は何もしてくれない。ならば自分たちで」という機運が芽生えた。廃校となった中学校の校舎問題が浮上した63年、そのまま集会所に転用する考えを示した町に対し、独自の跡地利用計画を策定。地域をまるごと自然博物館にしようと、都市住民が宿泊できる研修施設「エコミュージアム川根」の建設を提案した。

 4年後に完成した施設は、協議会に経営がゆだねられた。利用客数に応じて時給制のスタッフの人数を調整するなど、工夫を凝らした運営で黒字を計上している。「自ら考えて行動する住民を、行政が支援する|。そんな提案型住民自治のシンボルです」と、スタッフの一人は胸を張った。

 自信を深めた住民は、次々に提案や行動を起こした。自由に間取りを設計できる町営住宅の建設を発案し、定住者の増加につなげた。3年前、農協支所の購買所の廃止が決まった際には、1戸当たり1,000円ずつ出資。近くの建設会社に運営委託し、生鮮食品が購入できる唯一の店を守った。活動は産業振興や福祉の分野にも及び、地元企業と人材派遣契約を結ぶ営農組織をつくったり、住民の「1日1円募金」を原資に、独居老人向けの給食サービスも実施している。

中学校跡地に建てた「エコミュージアム川根」
中学校跡地に建てた「エコミュージアム川根」。提案型住民自治のシンボルとなっている=広島県高宮町
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 一連の取り組みは周辺にも刺激を与えた。他の町内7地区も相次いで協議会を結成。町は8つの協議会と定期懇談の場を設け、それぞれの地域課題を施策に反映させるようになった。町企画課の近藤一郎課長は「住民と行政が『協働』する仕組みを編み出してくれた。事業は計画段階から住民の参画が原則となり、結果的に行政の無駄も省けた」と評価する。

 町は来年3月、高田郡6町の合併で約3万5千人の「安芸高田市」の一部となる。しかし、川根に不安の声はない。行政区域が大きくなるほど、協議会の役割が重要になると考えるからだ。辻駒会長は「自治を強化する好機。協議会がしゃんとしとりゃ、周辺部でも衰退はせん」と言い切る。

 町は、新市全域での協議会組織の拡大を目指している。「西尾私案」でまだ構想段階の「内部団体」が、中国山地では既に具体化されている。


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