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正念場の地方自治 No.40 連載目次 前へ 次へ

第3部 ルポ・列島 再編の現場 長野県栄村 2003.03.24
山村の「田直し」
 木造の小さな駅舎の脇に、高さ7.85メートルを示す標柱がぽつんと立っている。昭和20年2月12日、長野県の北部、新潟県境の栄村が記録した積雪量だ。JR沿線では最高積雪。根雪は、年に140日間も村を覆い、2月半ばを過ぎても、大人の背丈ほどの雪が道沿いに積もっている。

 村内の標高差は2,000メートル近くあり、谷沿いの集落は切り立った崖に囲まれている。急斜面には2−3メートルほどの小さな棚田がひしめくように並び、あぜ道は狭く、コンバインが使えないような田んぼも少なくない。

脱補助金で地域づくり
実情に合った事業実現

 「2枚の田んぼをまとめてほしいんだけど」

 「じゃあ、この部分を削って、高さはこのくらいにしましょうか」

 雪のない春から秋にかけ、高橋健さん(46)=同村青倉=は農家とこんな会話を交わしながら、田んぼのレイアウトや作業工程を思い描く。高橋さんは「田直し」請負人だ。重機を操り、農家が求めるまま田んぼを整備する。田直しは村の事業で、しかも費用は安い。

 人口2,600人の小さな栄村は、900世帯のうち農家が3分の2を占める。高齢化が進み、農業に就く人の3割が70歳以上のお年寄り。担い手不足は深刻だ。棚田をまとめて整えれば、機械を入れて作業できる。人にも貸しやすくなり、農地の荒廃を防げる。だが国や県の補助事業では一律の基準に縛られ、費用はかさむばかり。農家に負担をかけず、自由に農地を整備するにはどうするか。村は知恵を絞った。

 「『オペレーター付きのリース契約』ですよ」と、担当職員は誇らしげに言う。平成元年、村は単独の農地整備事業を始めた。それが「田直し」だ。農家がショベルカーなどの重機を借り、村や重機運転手の高橋さんと直接相談して整備方法を決める。10アール当たり40万円を目安に、費用の半額を村が負担する。

 高橋さんは農家から相談を受けると、その場で作業内容を即決する。かつて土木会社に勤め、農地整備の経験は豊富だ。測量や設計はいらない。側溝を造るにしても、農家が「うちは土の側溝でいいよ」と言えば、高価なコンクリート製品など使わない。

栄村の農地整備事業「田直し」
栄村の農地整備事業「田直し」。村と高橋さん、農かが話し合いながら水田を整備する
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 これまで、田直しで広げた水田1枚の平均面積は8アールだった。国の事業では30アールに広げなければならず、村と農家の負担が3割強でも、面積が広い分だけ、お金がかかる。かつて補助事業では10アール当たり、田直しの3倍近くもかかった。「村の融資制度を使えば、毎年5万円、米2俵2分程度を4年間返済すれば大丈夫」と職員。農家の3分の2が利用した。

 補助金に頼らない事業は、ほかにもある。

 集落を抜ける道は曲がりくねり、幅も乗用車1台がやっとという場所が多く、除雪車が通れなかった。村は田直しを応用して平成5年、3−4アールを目安に道路を拡幅する「道直し」も始めた。

 拡幅を要望する沿線集落と地権者、村が相談して計画を立てる。民間に発注すれば、費用はかさむ。道路整備の経験をもつ村民を、臨時職員として雇った。アスファルトの厚さや道幅など基準には縛られない。

 「国の法律は、基準が一律。それぞれの地域に応じた事業にすれば、効率もいいのだが」。高橋彦芳村長の実感だ。

 田直し、道直しは、村の実情を踏まえている。「脱・補助金」で負担を軽くしただけでない。村民が主役となり、行政とともに村づくりを考えていると、高橋村長は自負する。「自己決定、自己責任は、住民が行政に参加して初めて生まれ、自治が芽生える。自治は上から命令されて行うもんじゃない。下から積み上げるもんなんですよ」

 村のスローガンは「実践的住民自治」だ。


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