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正念場の地方自治 No.45 連載目次 前へ 次へ

第4部 合併と市町村議会 特例任期の矛盾 2003.04.19
 長机がずらりと並ぶ。ネームプレートは95個。大勢の議員がひしめく議場の最後列から、大きな声が飛んだ。

 「議長になりたい人がいるそうだが、立候補の抱負を述べてほしい」。全国で唯一、漢字と片仮名交じりの市名を使い、4月1日に発足した山梨県「南アルプス市」。記念すべき第1回の臨時議会は初日の10日、議長選挙をめぐって早々とこじれた。「議長選は立候補制ではない」と事務局側は説明したが、「誰が誰なのか分からない」と別の議員が声を荒らげた。

 南ア・北岳を仰ぎ、南に富士山、北に八ケ岳を眺望する新市は、人口7万人余り。旧櫛形町や甲西町、若草町など6町村で合併した。95人もの議員を収容できる議場はなく、公民館を改修して仮の議場を準備した。長机一つに、議員2人が“同居”している。議長選は休憩中の全員協議会で3人が抱負を述べ、ようやく丸く収まった。

95人がひしめく議場
報酬格差も大きな課題
 4月1日に誕生した全国11の新市町のうち、新設(対等)合併でスタートした9つの市町には共通点がある。旧市町村議員の任期を、2年以内に限って延ばす「在任特例」を採用したことだ。

 南アルプス市は、2月に選挙を行った旧若草町への配慮などから任期を1年11カ月延ばした。「議員へのアメが必要だった」(議会事務局)という。議員数は、人口350万人の政令指定都市、横浜の89人(定数92)を上回る数にまで膨れ上がった。

 「旧町村のしがらみを引きずっちゃいかん。この人数で1年11カ月の延長はあまりに長い。住民は納得していない」。議長選で抱負を述べさせるよう迫った旧甲西町の市橋幸男市議は言う。

 延長後は30人に定数を落とし、改修した仮議場も元の公民館に戻す。新市のある職員は「無駄と思われても仕方ないですね」と声を潜めた。

§   §   §

 議員の任期を延ばしたことで、矛盾を抱えた自治体はほかにもある。旧静岡、清水市の合併で、国内で最も面積の広い市になった新静岡市。問題になったのは「議員報酬」の格差だった。

 「選挙も行わずに任期を延ばし、お手盛りで報酬額を引き上げるなど、とんでもない」。清水商工会議所の藤浪二美雄副会頭(68)は昨年来の議会サイドの動きを振り返り、憤りを言葉にした。

 旧清水市の議員報酬は月額51万9,000円。一方の静岡市は64万9,000円で13万円の開きがある。「市域が広がるのを理由に、高い方に合わせようという動きが伝わってきた。民間は給与カットで涙をのんでいるというのに」。昨年11月に清水市長らに提出した引き上げ反対の陳情書には、自治会連合会や商工会議所、農協、森林組合など各団体が名を連ねた。3月末になって、当面は現行のまま報酬を据え置くことに決まり、極めて異例な「1市2制度」で、新市の議会が出発することになった。

 議員を95人抱える南アルプス市は報酬額を決めかね、今後、報酬審議会を開く。1日に新設合併した他の市町を見渡すと、福岡県宗像市など4市町が「高い自治体」に合わせ、3町で合併した広島県大崎上町は「真ん中」に合わせる玉虫色の決着をみた。

 県内の議員の間では、こうした動きに違和感を覚えるという声も多い。「合併で議員が活動するエリアは間違いなく広がる。報酬額を上げてもいいが、仕事の中身と金額が見合っているかどうかが大事だ」。県東部のある町議は仕事内容との対照表をつくって妥当な線を割り出すべきだと強調する。

 南アルプス市などが誕生した1日に「法定協議会」の初会合を開いた砺波地域8町村は、全国の先行事例とは異なり、合併直後に選挙を行う。議員数の合併太りも報酬格差も生まない「思い切った再編」といえるが、それでもいくつかの課題が浮上するところに合併問題の難しさがある。

南アルプス市議会
旧6町村の議員任期を延ばし、合併後、95人の大所帯になった議会=10日、南アルプス市

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