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正念場の地方自治 No.54 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 合併の光と影(下) 2003.06.01
 「道路の拡張はあちこちでやっている。道はよくなったけど、赤字で大変やなあ」。兵庫県の篠山(ささやま)市内を走り回りながら、タクシーの運転手はため息をついた。

 「あの立派な建物が、図書館ですわ…」

 平成11年に4つの町が合併した篠山市は、この4年間、次々にハコモノを建設した。旧丹南町に今春オープンした市立中央図書館もその1つ。洋風の時計塔があるしゃれた建物で、蔵書数は5万冊に上る。市は総事業費約19億円のうち「合併特例債」を17億円分充てることにした。

 特例債は、借金にあたる地方債の一種だ。篠山市はすでに135億円ほど発行した。ほかの借金も含めると、13年度決算で455億円になり、合併前の倍近くにまで膨れ上がっている。

倍に膨れ上がった借金
甘くない特例債のアメ

 「これだけ事業があるわけですから、財政的に窮屈になったのは確かです」。市政策部企画課の森本繁課長は、はっきりと言う。合併特例債を使う事業は、21年度まで12件。総務省がはじき出した特例債の試算額197億円を、めいっぱい使う見通しだ。

 「子どもが部屋を欲しがっているのに『金がないから10年待て』とは言えない。大人になってしまうでしょう。多少財政的に大変でも、これは質のいい借金。住民に早くサービスを受けてもらうという政策なんです」

 森本課長が「質のいい借金」と語るのは当然だろう。国が市町村合併を促す「アメ」として創設した特例債制度は、合併する自治体を優遇するものだ。対象事業の95パーセントに充てることができ、頭金は5パーセントだけ。しかも、返済の7割に地方交付税が投入され、借金の大部分を国が肩代わりする。

 しかし今、全国で合併を目指している法定協議会は315あり、市町村数では1,300にも上る。篠山市のような特例債の使い方をすると、膨大な金額になりそうだ。

 富山県内5つの地域だけでも、発行できる試算額は計2千億円。総務省は「全国でどれぐらいになるか、予想できない」と口を濁すが、315地域の合併がすべて人口5万人に満たない篠山市規模だとしても、フルに発行すれば6兆円は下らない。合併する自治体には“得”でも、その借金は、回り回って国民が尻ぬぐいすることになる。

洋風のしゃれた図書館。合併特例債で建てられた
洋風のしゃれた図書館。合併特例債で建てられた=兵庫県篠山市
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 篠山市は、合併前の旧町にまんべんなく配慮して、特例債事業を進めてきた。旧篠山町は市民センターなど、旧丹南町は中央図書館やJR駅の周辺整備、旧今田町は温泉施設。旧西紀町は斎場だが、ほかの借金も使って運動公園を整えている。

 新市建設計画をつくる際、旧町の将来構想をほとんど盛り込んだ。遅かれ早かれ、着手しなければならない課題ばかりだったと森本課長は力を込めながら、こう打ち明けた。「まったく新しいものをつくるには時間がかかる。それに旧町の計画を生かす方が、住民の理解を得やすいんです。住民は自分たちの町の事業が、ほかより多いか少ないかを気にする。合併にはそういう難しさ、もどかしさがあるんです」

 篠山に接する三田市の関西学院大学キャンパス。「篠山の計画は、総花的ですね。明確なまちづくりの方向性が見えてこない」と総合政策学部の長峯純一教授は言い、「成長を前提にした将来の見通しも、甘かったと思う」とたたみかけた。

 新市建設計画は合併から10年後の人口を6万人に想定したが、増える気配はない。JR線の複線化や合併による知名度アップが追い風になると期待し、阪神地域のベッドタウンとして人が流れ込むのを見込んだが、不況で阪神地域の地価が下がり、篠山まで引っ越してこないからだ。「人口がこのまま増えなければ、過剰投資と批判されても仕方がないでしょう」

 そもそも住民は、開発型のまちづくりを望んでいるのか。住民や議員へのアンケート調査からは開発優先や人口増を望む声と、逆に開発抑制や現状維持を望む意見が浮かび上がり、ちょうど二分された状況が読みとれるという。「十分に議論を重ね、将来像を描くべきだったのではないか」。長峯教授は疑問を感じている。


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