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正念場の地方自治 No.55 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 庁舎建設の夢 2003.06.03
 「どんな施設になるがかねえ」「文化ホールがいいな」。平村の住民の間では最近、こんな会話が交わされるようになった。10年以上も前に浮上し、宙に浮いたままだった「役場の移転新築」がここにきて現実味を増してきたからだ。火付け役は、1年半後に控えた合併。「私が村長のうちに済ませたい」。中村義則村長の意志は固い。

 役場新築は、今年になってクローズアップされた。村議が3月議会で、若者センター「春光荘」や隣接する平小学校体育館を合併前に整備することを求め、村長は「総合的な施設にしたい」と前向きな姿勢を見せた。

 近隣7町村との合併は平成16年11月。役所機能を分散させる「分庁舎方式」で新市がスタートするのに合わせ、窓口業務と地域振興を担う「行政センター」にふさわしい施設をつくりたいという思いが強い。イメージはおぼろげだが「文化的な社会体育館」などを備えた施設を想定している。村には庁舎のために積み立ててきた「基金」が7億円余りもある。

将来の用途を明確に
合併前に計画が再燃

 庁舎新築の計画は、図書恒遠前村長の時代に持ち上がり、平成2年から建設基金を積み立て始めた。翌年就任した中村村長は「君が新庁舎を建ててくれ」と託されていた。現在の役場は、村中心部の下梨地区にある。築50年で、15年ほど前に改修しただけ。庁舎内は手狭だ。毎年こつこつと基金をため続けた。

 しかし、計画は難航した。村は急傾斜の谷に挟まれて平地に乏しく、思うように用地が決まらなかった。8年ごろ、2つの小学校の統合問題が浮上。村はこれをきっかけに、役場と統合小の新築に乗り出そうとした。

 新庁舎を村中心部の下梨小跡地に建て、役場から3キロ離れた東中江小を建て替えて統合小にすることが10年、議会で決まった。だが村民から「通学を考えれば、学校は中心部にほしい」と反対された。直後の選挙で議員の半数が交代し、計画は白紙に。結局、旧下梨小が現在の平小になり、旧東中江小は、そば打ちなどの体験施設に改修されることになった。

 役場新築は棚上げされたままになった。一方、次第に文化施設を望む声が高まった。村に文化ホールはない。行事やイベント会場にしている平小体育館にしても「音響設備が悪い」という不満が聞かれる。村民には「こきりこと麦屋節発祥の地」の自負があり、世界遺産の合掌集落を村おこしの柱に、イベントで観光客を集められる拠点が欲しい。合併後も“村”の振興に欠かせない。

 中村村長は「合併前でないと、村民の思うような施設にできないかもしれない。具体的にはこれから詰めるが、10月には発注したい」と言う。構想を練り、議会の議決を得るなどすべきことは多い。合併協議は始まったばかり。行政センターにしても、どんな仕事を担い、どれだけのスペースが必要かは未定だ。

兵庫県篠山市の西紀支所
兵庫県篠山市の西紀支所。合併前に建てられた庁舎は人がまばらだ
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 合併を目前にした自治体が、庁舎の新築を目指すケースは全国的に珍しくない。京都府丹後地方の加悦(かや)町は、昨年2月に庁舎を完成。兵庫県篠山(ささやま)市の旧西紀町も合併前の9年7月に建てている。いずれも基金を使った。

 今は篠山市役所西紀支所になった旧西紀町役場は総事業費12億5千万円で、基金が8億5千万円あった。「核になる役場を合併前に建てておきたい、という住民の声が強かった」と高橋淳介支所次長は振り返る。合併協議のさなか、鉄骨5階建ての庁舎が完成した。だが54人いた職員は合併後に減らされ、今年は支所9人、公民館4人と寂しい陣容だ。

 人権センターなどを同居させ、空きスペースをNPO(民間非営利団体)に貸すなどしているが、人の姿はまばら。住民が活動できるスペースも当初はなく、合併後に2階の一部を改修してサークル活動に使える多目的ホールにした。「旧町の長年の思いや夢があり、基金があったから庁舎を建てた。だが、何を目的に建てるのかをもっと意識して、議論しなければならなかった」と高橋次長は感じている。合併前に建てる施設は、新市での位置づけや用途を明確にすることが欠かせない。


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