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正念場の地方自治 No.56 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 合併前事業 2003.06.04
 再編を迫られているのは市町村だけではない。住民の生命と財産を守る「消防」もまた、広域化を目指す。全国にある消防本部の数は今、892。市町村が3千余りあることを考えれば、自治体合併より先行している。「ところが簡単にはいかない事情がありましてね」。総務省消防庁の消防課職員はこぼす。

 「平成の大合併」が進むにつれ、さまざまな課題が浮上してきた。1つはエリアの問題。消防の再編は本来、地形や交通事情に左右される。谷を挟んで向こう側にある住宅密集地を、その地域に近い隣の消防署に任せるといった具合だ。だが、消防の事情だけを考えて市町村合併の枠組みが決まるわけではない。合併後の新しい自治体と広域圏消防本部のエリアに、ズレが生じ始めた。「編入合併した地域だけ管轄が違うとか、一部事務組合の構成が変わってしまう例があるんです」

 消防再編は市町村合併の急展開で、後手に回り始めた。問題はエリアのズレにとどまらない。

納得できる消防体制を
後手に回る広域再編

 「大変悩ましいところです」。5月23日に開かれた小杉町議会合併問題特別委員会。土井由三町長の苦り切った表情が、その問題の難しさを物語った。小杉町など4町村でつくる射水消防組合の庁舎建設計画だ。

 昭和50年に建てられた庁舎は耐震点検で、建て替えか補強の必要があると診断された。通信システムも古く、故障しても交換する部品は中古。平成12年に新築が決まり、計画は順調に進んだ。昨年には用地の取得と造成、実施設計を済ませ、あとは来年度の完成に向けて今秋の着工を待つだけ−のはずだった。

 状況は一変した。新湊市を含めた5市町村による法定合併協議会が発足したからだ。計画を「合併前事業」にする案がここにきて浮上している。

 「悩ましい」のは合併に伴う財政優遇措置。当初計画では、地方債の返済額は8億円を超えた。だが、合併を踏まえれば有利な借金ができる。合併前事業に使う「合併推進債」は事業費の90パーセントに充てられ、半額を地方交付税でまかなえる。返済額は約5億700万円まで減る。合併後に発行する「合併特例債」はさらに有利で、返済は約3億6,600万円になる。

 特別委では慎重な発言が相次いだ。「新湊にも消防本部がある。射水の新しい庁舎は5市町村の中心になるのか」「合併協議で話し合えばいい」「4町村でも話し合いが難航しているのに、協議会で決められるはずがない」。合併前事業に踏み切ることは、事実上の合併を意味する。協議がスタートしたとはいえ、小杉町は「合併が決まったわけではない」という姿勢。枠組みをめぐる住民投票で、半数近くが反対した事実がのしかかる。

 土井町長は「合併した時の消防がどうあるべきかを検討しなければならない」と結論づけた。

射水消防組合の本部庁舎
射水消防組合の本部庁舎。新築計画を合併前事業にする案が浮上している=小杉町三ケ
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 消防庁は「人口10万人規模に1つ」を目安に、消防本部の再編を進めようとしている。地下街や高層ビルなど建物の構造は複雑になり、テロへの対応にも迫られている。高齢化は進み、救急搬送の件数も右肩上がりだ。県内では昨年1年間で2万6,700件に上り、10年前の1.5倍に増えている。だが、消防本部の大半は職員が50人を切り、消火と救助活動を兼務している例が多い。

 広域化は車両や機材を効果的に配備するほか、人を増やし、救急救命士など高い技術を持つ署員を養成する狙いがある。

 合併を前提に広域消防のあり方を考えるとすれば、射水消防組合の庁舎だけでなく、新湊市消防本部庁舎も視野に入れる必要がある。新湊市も、消防庁舎の建て替え計画を抱えている。昭和40年に建てられた庁舎はやはり老朽化が目立ち、新築は市の総合計画にすでに盛り込まれている。

 分家静男市長は法定協議会で話し合う姿勢を示し、言葉は明快だ。「最小の費用で最大の効果を上げるのが、政治として進むべき道だ。推進債なり特例債を使って、新市でも活用できる庁舎にすればいい」。どんな場で協議するにしろ、庁舎のあり方を深く話し合いたい。納得できる消防体制を住民は求めている。


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