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正念場の地方自治 No.57 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 名は体をあらわす 2003.06.05
 「難しいですね」−。テーブルに着いた委員の口から思わず漏れる。5月30日、井波彫刻伝統産業会館で初会合をもった「新市名候補選考小委員会」。全国公募で集まった2,752通りの名称案に目を通し、委員たちは、肩にのしかかる重責を感じていた。

 砺波平野にある井波と福野、福光、城端の各町と井口村、そして山手の五箇3村。小委員会は、県内で最も多い8町村でつくる合併協議会が設けた組織だ。平成16年11月の合併に向け、今年8月にも新市の名が決まる。委員8人は協議のそ上に載せる名称候補を、5、6点まで絞り込む役目を担っている。

 「住民が愛着を持てる名前にしたい」。それぞれが選考に臨む思いを語っていく。立山博物館の米原寛館長は「名は体をあらわす。50年たっても、住民がよかったと思えるような名を選びましょう」と力を込めた。

長く愛される市名に
歴史、夢…難しい選考

 この地域が新しい市の名称を決める難しさは、町村数が多く、それぞれ強い個性を持つことにある。平や上平、利賀の3村で合併するなら「五箇山」や「こきりこ」などのイメージが浮かぶが、平野部には当てはまらない。「南砺」という呼び名も、井波や福野の住民にはしっくりこない。

 地域を代表し、協議会メンバーから委員に選ばれた福野町の岩崎幸範議長が発言した。「応募の中には八乙女山という案もある。8町村だからいいなと思ったり、でも、あれは井波の山だなと思ったり…」。8つの自治体を包括するイメージがあり、歴史に根差していても、地域に偏りが出る場合がある。だが、各町村に配慮しすぎては、まとまるものもまとまらない。岩崎議長は「とても難しいが、自由な発想で考えていきたい」と強調した。

 この日は「漢字の地名でどこかの地域が突出するのなら、かなを使っていくつかの地名を連想させる方法もある」という意見が出され、別の委員が「やはり、漢字の方がいいのでは」と難色を示す場面があった。

 全国的には新しい自治体名に、ひらがなやカタカナを用いるケースが増えている。平成に入ってからも「ひたちなか市」(茨城)や漢字かな交じりの「あきる野市」(東京)「さいたま市」(埼玉)「さぬき市」(香川)と続く。この4月には漢字とカタカナを使った「南アルプス市」(山梨)や「東かがわ市」(香川)「あさぎり町」(熊本)が誕生した。

砺波地域8町村の合併後の市名候補を検討する小委員会
砺波地域8町村の合併後の市名候補を検討する小委員会=5月30日、井波彫刻伝統産業会館
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 全国で進む合併協議を外部から注目している学者は多い。言語学が専門の加藤重広富山大助教授もその1人。「かなの使用はある意味で賭けですね」。ひらがなには柔らかな響きがあり、住み良さや癒やしといった印象を与える。カタカナは軽くて新しいイメージ。未来への期待も感じさせる。「でも、そんな印象も時間がたてば薄れ、自治体数が増えると注目されなくなる。新たな方向性を打ち出す意思は示せますが、覚悟が必要です」

 民俗学者や地名研究家の間では、かな表記だけでなく、東西南北の多用や県名の借用、東京都の大森と蒲田で「大田区」としたように一部を合成させるケースが増えているとして「安易な命名で、歴史を刻む名が消えるのはしのびない」と危ぐを抱く声も出始めている。米フィラデルフィア(友愛)のように、抽象名詞にする場合も難しい。「豊」「幸」など願望を表す言葉は画一的になりかねないからだ。

 選考小委員会では、一筋縄ではいかない課題を背負い、委員が思いのたけを語り続けた。「歴史や文化の視点から考えたい。古くから使われる馴染み深いものがいい」「活字のイメージや音の響きが大切でしょうね」。どんな都市像を描くかも欠かせない視点になる。

 委員会はまず、既存の市町村名と同じ表記の案を採用しないことを決めた。次回までに事務局が「地域の歴史や文化を表す」「夢や理想がある」「対外的に知名度が上がる」「その他」の4ジャンルに名称案を分類。各委員が候補を選んで持ち寄ることになった。

 歴史、夢、知名度アップ…。どんな名が選び出されるのか。将来の新市名は、全国から寄せられた案の中にある。


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