富山県内の市町村合併 ホーム > 市町村合併 > 正念場の地方自治
正念場の地方自治 No.61 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 病院の新築 2003.06.13
 松林の向こうに海が広がる。「夕焼けが美しいんですよ」と、あさひ総合病院(朝日町泊)の赤川直次院長が、4階の窓越しに遠くを見つめる。「6階建てになれば眺めはもっとよくなります。心穏やかに、体を休めてもらえればうれしいですね」。冬になれば竜巻も見えるのだと話し、笑みをこぼした。

 視線を手前に移すと、広々とした土地が目に入る。あさひ総合病院の建て替え用地だ。今夏着工し、工期は平成17年3月まで。朝日町立病院の新築移転という大事業は黒部と宇奈月、入善を加えた1市3町の合併協議にも、無縁ではない。

医療福祉は合併の目玉
オープンな議論を

 現在の病院は、昭和42年に建てられた。

 診療科は、内科や外科など当初の8つから、脳神経外科や耳鼻咽喉(いんこう)科などが加わり、今では12に増えている。手狭になるたび改装を繰り返してきた。建物は古く、同じような規模の病院には大抵あるMRI(磁気共鳴画像装置)が、無い。

 赤川院長がこの病院に勤めたのは昭和59年だった。「ここに来た時に思ったんです。国民皆保険制では全国どこにいても、同じレベルの医療を受けられるのが建前。何とかしたいと…」

 設備投資は「患者の信頼」にかかわる。病院は赤字経営が続き、新築は夢でしかなかった。

 しかし、経営改善が進んだ平成9年には単年度収支が黒字に転じた。魚津龍一町長が建設を打ち出し、計画は動き出す。13年度までに用地を確保し、今ようやく着工を迎えようとしている。

 生まれ変わる病院は敷地約3万4千平方メートル。

 6階建てで、1階に外来や検査部門、2階には手術部門などを置く。赤川院長は「脳こうそくや心筋こうそくなどは、時間との勝負。体制を充実させ、MRIや血管撮影装置も導入したい」と言う。人工透析にも力を入れていく方針だ。

 3階より上には200床余りのベッドを置き、なかでも6階は、自宅へ戻るための「回復期リハビリ病棟」にする。

あさひ総合病院の裏手に広がる建て替え用地。今夏、着工する
あさひ総合病院の裏手に広がる建て替え用地。今夏、着工する=朝日町泊
§   §   §
 病院建設には、膨大なお金が動く。6日の指名競争入札では、建設、電気設備、機械設備の各工事が、計57億円余りで落札された。医療機器にも費用がかかる。

 10日開かれた黒部市の6月議会。あさひ総合病院の建設について、議員が「重い負担を抱えるのではないかと、市民は不安を感じている」と質問した。「内政干渉はできない」。荻野幸和市長はそう断りながらも、合併が浮上する前から建設計画が進んでいたことを強調し、答弁を続けた。

 1市3町のエリアには黒部市民病院もあるが、2つの自治体病院は20キロ近く離れている。

 黒部市内を中心に、宇奈月や入善などから患者が集まる黒部市民。あさひ総合は朝日や入善などをカバーし、県境を越えて新潟県青海町からも患者が訪れる。住民にはいずれも大切な病院だ−。市長の考えは、赤川院長の思いと同じだった。

 合併後を見すえれば、2つの病院が、どう連携していくかが大きな課題になる。

 荻野市長は続けた。

 「機能分担を図っていく。そのうえで、(両病院で導入を進める)電子カルテは、情報交換できるようにしたい」。将来的には、開業医や介護分野との連携も、視野に入れているという。

 病院は、お金を食うだけの行政分野と思われがち。合併前の大型事業だけに、近隣市町では「なぜ、こんな時期に」といぶかしがる住民や「デリケートな問題でして」と口を閉ざす職員も少なくない。しかし、これから団塊の世代が社会の一線を退き始めれば、高齢化は一気に加速する。地域を悩ませる人口減に歯止めをかけるためにも、安心して暮らせるまちづくりが欠かせない。オープンに議論を深める土壌を整えるべきだ。新幹線駅や黒部峡谷などの観光とともに、「医療福祉の充実」を新市建設の目玉として打ち出してもいい。

 「朝日町には大きな産業がなく、病院は雇用の場でもあるんです。まちづくりのつもりで取り組んでいきます」。地元で生まれ育った赤川院長は言葉をかみしめた。赤字を生まない経営努力が欠かせないと、誰よりも感じている。


(C) 北日本新聞社 記事・写真の転載を禁じます
The Kitanippon Press, All Rights Reserved