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正念場の地方自治 No.66 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 三位一体の改革(中) 2003.06.19
 永田町合同庁舎の4階会議室。すりガラスのドアの向こうで、地方分権改革推進会議の会合が開かれていた。2時間半の予定時間がすぎ、足早に出てきた東京大学経済学部の神野直彦教授(財政学)は、不満そうな表情を浮かべている。「会議にならない。禅問答の、空中戦ですよ」

 「三位一体の改革」を議論した分権会議は5月26日の会合で、地方から猛烈な批判を浴びた意見書試案の修正に取りかかった。試案は、国から地方への税源移譲を、「将来の増税時」に先送りし、財政再建路線を進める内容だった。改革の道しるべを示すはずだった会議は、この日も意見が対立し、意見書の提出期限だけが迫っていた。

省庁対立し「三すくみ」
欠かせない分権の視点

 非公開の会合を終えて会見した西室泰三議長と水口弘一議長代理は、先送りだと批判された部分について「誤解を招く表現を変えた」と、強調した。だが、反対する委員は納得していなかった。

 「まったく前進なし」

 別会場で開かれた会見には、神野教授や谷本正憲石川県知事ら4人が顔を並べていた。神野教授は「税源配分の見直しを検討すべきという表現は官庁用語で『やらない』と同じ。修正された文案は先送りでなく、雲散霧消案だ」と手厳しい。

 そもそも反対する委員たちが求めたのは、文章の手直しではない。どうしても税源移譲を前面に打ち出そうとしない議長らへの批判が、言葉の端々ににじむ。会議の混乱は、迷走した三位一体の改革を象徴していた。

 背景には省庁が足を引っ張り合う「三すくみ」の構図があった。旧大蔵省の財務省は、国家財政そのものが厳しいことを理由に、地方への「税源移譲」に後ろ向き。「交付税見直し」では、自治体をバックにした総務省が“荒療治”に対して慎重な姿勢を崩さず、財務省と対立した。「補助金の削減」で両省の足並みはそろったが、地方への影響力が弱まる文部科学省や厚生労働省、国土交通省などが「国の役割は重要」と抵抗してきた。

 分権会議は財務省寄りの立場。ところが、修正を検討し始めた会合の前日、もめる会議をよそに塩川正十郎財務相が「たばこ、酒税などの一部を移譲してもいい」と発言し、税源移譲に歩み寄りを見せ始めていた。

 その場にいたという西室議長は「(大臣ではなく)政治家としての言葉と受け止めた」と慎重に言葉を選んだが、はしごを外された感はいなめない。神野教授は「大臣が前向きな発言を始めたのに、なぜ分権という名のついた会議が、分権の足を引っ張る意見書を出さなければならないのか」と痛烈に批判した。

会見する神野東京大学教授(右から2人目)、谷本石川県知事(同3人目)ら分権会議の委員
会見する神野東京大学教授(右から2人目)、谷本石川県知事(同3人目)ら分権会議の委員=東京都内
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 地方分権に、税財源の移譲は欠かせない。谷本知事は「それを第一にやるのが分権会議のはず」と語気を強め、外部に閉ざされた体質にも「これほど公開度の低い会議はない」と言い切った。岩崎美紀子筑波大学教授(政治学)は「税財政は、国と地方の生命線。福祉や教育など国民生活にかかわる問題なんです。時間がないからと押し切るのは、暴力そのもの…」と涙声で訴えた。

 意見書は微修正を重ねて、6月6日にまとまった。反対委員の思いに応える内容ではなく、赤崎義則鹿児島市長を加えた4人が「反対」を明記して、異例の決着をみた。地方制度調査会が同じころ、首相に出した分権推進重視の意見書に比べて隔たりは大きい。

 閣僚間の調整に入った第2ステージも、難航した。公共事業を含めた補助金を約4兆円削減し、「所得税」など基幹税を含めて税源移譲することで合意。しかし、地方にどれだけ移すかという肝心な部分で、話し合いは最後までこじれた。

 諮問機関の混乱、省庁のあつれき…。小泉純一郎首相はここにきて、どうにか“着地点”を見いだした。補助金削減額のうち、8割をめどに地方に移す−。18日に経済財政諮問会議がまとめた「骨太の方針」第3弾の原案は、地方に厳しい行財政改革を求める。削られた補助金すべてが、地方の自主財源に移されるわけではないからだ。

 三位一体の改革が具体化するのはこれから。分権を置き去りにした改革であってはならないが、先行きは見通せない。


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