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正念場の地方自治 No.69 連載目次 前へ 次へ

第5部 新市建設への助走 行政の限界 2003.06.24
 新湊青年会議所(JC)の前理事長だが、新湊市民ではない。自動車整備販売業の金田光夫さん(41)は、会社も自宅も高岡市牧野地区。れっきとした「高岡市民」であることが、牧野地区の「境界」の不自然さを象徴しているようだ。

 牧野地区は南と北、東の3方を新湊市に囲まれ、西も庄川に遮られている。いわば「飛び地」。地区の若者の所属先は新湊JCになる。住民生活も同様だ。警察や斎場利用などは、新湊市や射水広域圏に組み込まれる。

 高岡市を取り巻く合併論議では、牧野が焦点の1つだった。人口30万人以上の中核市を目指すとともに、いびつな境界を解消しようと、新湊市にも合併を打診した。だが新湊市は、その呼び掛けに背を向けた。

 合併による境界変更が遠のいた今、地区の若者たちが立ち上がろうとしている。金田さんを中心に、同じような立場の若手経営者らが、高岡市からの分離と新湊市への編入を模索し始めた。「現状維持か、射水地区に入って新しいまちづくりを目指すのか。選べるチャンスは今しかない」

自治を担うのは住民
牧野で境界変更の動き

 牧野校下連合自治会の大坂昭輔会長(71)も境界問題に頭を悩ますが、その理由は異なる。「住民運動は、地区を分裂させるかもしれない。願わくば、高岡と射水地区が話し合い、県に調整してほしい」。問題が解決されないのは、何も合併の枠組みだけが原因ではないからだ。両市には、境界変更に乗り出せない事情がある。

 高岡市は牧野地区を手放せない。地区の人口増加には目を見張るものがある。旧牧野村が編入された昭和26年当時の約2千人から、今では約9千人に増えた。住宅地の拡大に伴い、飲食店や商店が相次いで進出している。東端には富山新港もある。佐藤孝志高岡市長は「産業と経済、文化の面で重要な地区。まちづくりを一層進めていきたい」と力を込める。

 一方、新湊市にとって牧野地区は、あくまでも高岡市の行政区域だ。分家静男新湊市長は「まず高岡市で議論すべき話。自治権の侵害になり、わたしからは一切、何も言えない」と話す。

 自治会は「新湊市との合併が最善」と主張してきた。今後の“身の振り方”を考えてはいるものの、大坂会長は「高齢者には『今さら』という声が多く、若い人には『射水に加わって発展させたい』という意見がある。住民の意向を踏まえ、慎重に進めなければ」と苦しい胸の内を明かす。

新湊市の行政区域に囲まれた高岡市の牧野地区
新湊市の行政区域(手前と奥)に囲まれた高岡市の牧野地区。右上の建物は牧野小
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 牧野地区、まして高岡市民全員が分離を求めているわけでなく、金田さんらの考え方は「地域エゴ」にも映りかねない。しかし、動機は別のところにもある。「行政にできないのなら、自分たちが動けばいい」

 国の主導で進む「平成の大合併」。昭和の合併から半世紀たち、今の市町村のかたちに慣れきった住民に、大きな問いを投げ掛けた。市町村の境界は絶対ではなく、県のあり方、国と地方の関係も変え得るという事実を、合併や三位一体の改革論議があらためて突きつけている。

 ただ、じっくり考える時間はあまりに少ない。特例法の期限にせかされるように合併論議は加速し、戸惑う住民は少なくない。金田さんには、合併が行政や議会を中心に進み、住民の理解が不十分だという思いがぬぐえない。

 「境界を変えると住みやすくなるのか、逆に暮らしにくくなるのか。地域を考えるのは、自分たちなんです。将来を見据え、子どもたちが一番住みよいまちにしたい」

 まず住民に、これまでの経過や分離の方法など情報を提供し、意見がまとまれば、次のステップとなる「住民投票」へとつないでいくつもりだ。

 地方自治は、国がお膳立てするものではない。地域に暮らす1人ひとりがそのあり方を考え、担う必要がある。合併や分離で境界が変わったとしても、まちの景色や住む人の顔ぶれは同じだ。自治を担う意識が住民になければ何も変わらない。そんな当たり前の事実を、金田さんたちは再確認しようとしている。

 第5部終わり。「インタビュー編」を引き続き掲載します。

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