ノーベル化学賞に田中氏(富山市出身) 目次へ >>ホームへ
分かち合う受賞の喜び 3日ぶりに夫妻対面 2002.10.13
 ノーベル化学賞受賞が決まった田中耕一氏(43)=富山市新川原町出身=は12日、勤務先の島津製作所本社がある京都市内で、取材などを一切入れずにゆっくりと休日を過ごした。同日夜、富山市の実家から妻・裕子さん(37)が3日ぶりに京都市内に戻り、受賞後初めて2人が対面、夫婦水いらずで喜びを分かち合った。

 裕子さんは同日午後6時すぎ、JRで京都駅に到着。出迎えた田中氏は「ご苦労さん。お疲れさま」と声を掛けると、裕子さんは「体を心配していたが、元気なようで良かった」と夫を気遣った。2人は互いにホッとした表情を浮かべ、京都市内の自宅へ向かった。
京都駅で対面した田中さん夫妻
田中氏(左)に「ご苦労さん」と声を掛けられ恥ずかしそうに笑う妻の裕子さん=JR京都駅

「これでちゃんと洗濯できます」 受賞後初の休日 2002.10.13
 「これでちゃんと洗濯ができます」。ノーベル化学賞の受賞決定後、初めて妻と京都市内で対面した田中耕一さん(43)=富山市新川原町出身=は12日、最愛の妻と3日ぶりに顔を合わせた。この日は取材をすべてキャンセルし、休日を過ごす一方、学会用の資料作りのために島津製作所本社へ予定外に顔を出すなど「大好きな研究」にも没頭。再会した妻を見る表情には安心感からか笑顔があふれた。

 水色のシャツにベージュのズボン、スニーカーという普段着姿の田中さんはJR京都駅で妻・裕子さん(37)を出迎えた。「こんなことになっちゃって」と照れ笑いを浮かべながら報道陣の方を向くと、裕子さんは2、3歩下がって丁寧にお辞儀。夫の受賞について聞かれると「もうびっくりしてます」とだけ答えた。

 連日の分刻みのスケジュールに疲労を隠せない田中さんは、この日から14日まで休日。受賞決定後初めてのプライベートな時間だったが、午前10時に会社に出社し、届いている電子メールを確認。15日に京都市で開かれる「日本生化学学会」で講師を務めることから、講演要旨の仕上げに追われた。

 同僚らが「きょうぐらいは休めよ」と一躍有名になった「時の人」を冷やかすと「学会の準備はしっかりとやりたい」と田中さん。普段と全く変わらない、きまじめさを見せたという。

 田中さんは13日、同市内のホテルで開かれる「近畿富山県人会総会」に、裕子さんと出席する予定だ。「おじが世話役になっている。(夫婦)2人とも富山県人だから参加します」と取り囲んだ報道陣に言い残し「ありがとうございました。失礼します」と礼儀正しくあいさつ。夫婦水入らずの時間を楽しみにしながら同市内の自宅へ向かった。

「役員待遇」昇格へ 島津製作所が方針 2002.10.13
 島津製作所は12日、ノーベル化学賞の受賞が決まった同社研究所主任、田中耕一氏(43)を「役員待遇」などに大幅に昇格させる方針を明らかにした。

 主任は課長級の一つ下の役職で、実現すればノーベル賞受賞に伴う「スピード昇進」となる。早ければ来週早々にも決定する。

 同社は「課長、部長などという従来の枠内の管理職では、本人がさらに研究を進めるうえでの環境整備は難しい」とコメント。役員待遇の可能性が最も大きいものの、研究に専念できる全く新たなポストをつくることもわずかだが、あり得るという。

 田中氏は1983年に入社後、英国への出向も含めて一貫して技術者としての道を歩んできた。田中氏は記者会見などで「研究を続けるのが最大の希望だ」と話しており、これまでも昇進には消極的だったという。

難病撲滅へ大きな一歩 田中さん開発の分析法 2002.10.13
 ノーベル化学賞に決まった田中耕一さんが開発した「ソフトレーザー脱着法」は、生体内のタンパク質の質量を正確で効率的に測ることを可能にした。すでに新薬開発やがんの早期発見につながる研究に使われているが、今後、この方法でタンパク質の分析が進めば、がんをはじめとする難病が撲滅され、病気のない世界の到来も夢ではなくなる。まさにノーベル賞にふさわしい画期的な開発だった。

 2000年のヒトの全遺伝情報(ヒトゲノム)解読後に残ったのは、生命の謎・タンパク質の研究。しかし、タンパク質研究は、質量測定に日数がかかるうえに、大きな誤差が出る方法しかなかった。

 田中さんの開発した測定法は、タンパク質のような大きな分子構造を持つ物質を分離させずにレーザーを当ててイオン化し、質量を測る仕組み。ごく短時間での測定が可能で、誤差がほとんど出ない革命的なもの。県立大工学部生物工学研究センターの浅野泰久教授(酵素化学工学、応用微生物学)は「タンパク質の研究を車に例えれば、田中さんは超高性能エンジンの開発者だ」と話す。

 ヒトゲノム解読後、「遺伝子情報を基につくられるタンパク質が実際にどのような影響を及ぼしているか」の分析に生命科学の焦点が移り、田中さんの方法が一躍脚光を浴びた。

 富山医薬大薬学部の河野敬一教授(構造生物学)は「病気などの原因となるタンパク質の仕組みが分かれば、そのタンパク質の設計図である遺伝子も分かってくる」と語り、「世界の研究者が分析に躍起となる中、『素晴らしい測定法を考えたのは誰だ』と注目を集めたのだろう」とノーベル賞受賞決定の理由を推測する。

 「ソフトレーザー脱着法」はすでに、全世界の研究者に使用されている他の追随を許さない手段だ。田中さんは「病気の早期診断や薬剤のメカニズム研究など、人の健康に役立っているのが一番大きな貢献だと思う」と語る。

 人間のタンパク質は約3万種あるとされるが、河野教授は「田中さんが開発した方法のおかげで、そう遠くない未来に全てのタンパク質の分析が進み、生命の謎の多くが解き明かされるだろう」と話した。
受賞につながったタンパク質の質量分析装置と田中さん
受賞につながったタンパク質の質量分析装置を説明する田中耕一さん=10日午前、京都市中京区の島津製作所

田中さんの業績一冊の絵本に 大島絵本館が制作へ 2002.10.13
 大島町絵本館(高井進館長)は、ノーベル化学賞受賞が決まった田中耕一さんを主人公に、その足跡を記した絵本を独自に制作する。来年春をめどに完成させ、同館などで公開する。

 高井館長は、田中さんが富山中部高校2年生時の担任。受賞決定以来、「喜びを分かち合い、多くの青少年に伝える方法はないか」と考え、館員会議で提案した。

 同館は、田中さんに関する報道や高井館長の思い出などを参考に今後、ストーリーや挿し絵、装丁などを検討。題名は「富山ノーベル賞物語」「富山ノーベル賞伝説」などを予定している。

 毎年開催している「おおしま手づくり絵本コンクール」春の部で、審査外作品として特別展示する方針で、同館は「本として永遠に残し、田中さんの業績を伝えられる内容にしたい」としている。


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